マオと蛙と青い鳥は急いで森の中を駆け抜ける。蛙は皮袋に突っ込んで、鳥は頭上に座っている。 【外れ町の魔女の元へ連れて行け】 青い鳥のこの申し出は有り難かったが、茨姫の怒りを考えると恐ろしかった。魔女の元へ連れて行く役目がなければ塔に向かって放り投げて、逃げだしていた。怒りで我を忘れているフレア鳥を相手に出来るほど無謀ではない。実はこの際に蛙を放置して逃げようとしたが、青い鳥から止められた。どうも蛙は重要なアイテムらしい。 【彼女が気づく前に森を抜けろ。一瞬で森は火の海だ】 青い鳥の言葉がマオの脚力をより加速させる。この若い身空でこんがりロースト★なんて真っ平だ。それに神鳥の怒りに触れて昇天したと世間にしれたら、己も家名に傷がつく。祖母も悲しむ。マオにとって何一ついいことはない! 【頑張れ! もう少しだ!! そこの大樹の先からが魔女の領域だ】 心なしか、舞い落ちる紙の文字にも乱れが生じている。ひぇっっ! 追っ手? 茨姫か!? それでも自ら飛行しない青い鳥の根性は立派だ。 「よっしゃ、抜けたぁああ!! どわぁっ!!」 必死の形相と呼吸すら忘れて最後の追い込みダッシュで森を駆けたと同時に背後から爆風に吹き飛ばされる。受身も取れずに地面に叩きつけられたマオは意識を失った。 背中に痛みを感じつつマオは意識を取り戻した。で、森のほうに視線を向けると、案の定、綺麗サッパリ消失していた。豊かな森は神鳥の怒りに触れた塵芥と化したのだ。どう考えても夫婦喧嘩のとばっちりだが。 「……取りあえず、魔女に会いにいこう。森の件? なにそれ?だよね〜 大体、自分は無関係だし? ね!」 「ゲコ!」 蛙も速攻でうなずく。そして、一人と一匹はニッコリと微笑みあう。自分達は神鳥夫婦喧嘩に巻き込まれた、被害者と主張してもいいぐらいだ。残るは青い鳥を外れ町の魔女の元に送り届けるだけ。そしてとっととトンズラしよう。 「派手にやってくれたもんだね」 【お陰で卵は無事孵ったようです】 「そいつは上々だ。祝いの品は何にしようかね」 【名前を是非、授けていただけたらと】 外れ町の魔女と青い鳥は楽しそうに会話していた。が、魔女の傍に控えている白毛狼が頭を抱えて、ブツブツ呟いている。 「月神様に御仕置きされる。言い訳、言い訳は……」 外れ町の魔女宅を訪ねて、いの一番に出迎えてくれたのは禁色の森の番人である尻尾フリフリな白毛狼だった。なんでも魔女が育ての親らしい。森の消滅の時も魔女の家にてごろ寝していたそうだ。そんなダラ番人は一度、キッチリお仕置きされたほうが今後の為だろうとマオは思う。 「しかし、タイミングが狂ったね。肝心の鍵が浄化できていないじゃないか」 【問題はそこです。彼女は逃げ足が存外に速くて…… 「足手まといの蛙」がいれば確率が高くなると思っていたのですが、申し訳ない】 実は誘導した逃げ道も最短距離と見せかけて遠回りにしたのだが、マオの脚力がそれを凌駕してしまったのだと、青い鳥は魔女に説明していた。 ちょっと、待・て。そこの老婆と小鳥の会話! それはどういう意味だ? いや聞きたくないが、確認すべき重用問題だ、この会話内容。 「失礼ですが、それはどういう意味ですか? まるで自分は生存していてはいけなかったように解釈できるのですが?」 「ゲコーー!!」 「そんなことはない(生きていようが死んでいようがね)。鍵が浄化できていないことが問題なのさ」 「神鳥フレアの炎で(マオを尊い犠牲にして)鍵を浄化する予定だったんです」 【魔女殿の程の実力者なら死者を蘇らすこともたやすい】 白毛狼は申し訳なさそう、かつ残酷な説明と青い鳥のフォロー?はマオにとっては意味がないことだ。要はこいつらがマオを謀っていたこと。自分はこいつらに踊らされていたのだ。 多分、王子もあの星の賢者も…… その事実が悔しくてたまらない。 「最初から分かっていたら、あんたこの任務引き受けたかい?」 「断るに決まっているでしょうが!!」 魔女の問いかけにマオは即答した。蘇る前提でも、好き好んでこんがりロースト★されたい奴はただの変態だ。 「だったら、騙すしかないだろう」 「ならば、ご自分達が犠牲になればいいでしょうがっ」 【上司の後始末は部下が引き受けるものだろう?】 「彼のトラブルにはこっちも被害を被っているんです。ホンと、王子でなければ噛み殺してやりたいですよ。それに貴女を最悪、犠牲にしてもかまわないと言い出したのは王子のほうで… あっ!」 白毛狼の失言にマオの柳眉は直角に跳ね上がった。 「ちょっと、何その発言? あの糞王子がなんだって? オラ、そこ駄犬、さっさと吐かんかい!? でないとマジで締めるぞ? (#゚Д゚)ゴルァ!! はよう、吐けや!!」 「ちょっと、そんな本・気・で…… あ、ああん、い、逝く☆……」 【もう、締めているようだが?】 「まあまあ、今ここでこの子(白毛狼)をくびり殺しても解決しないよ。一番の元凶は王子で、そんな上司をもったあんたの運の悪さには同情するがね。取りあえず、これを飲んで落ち着きな」 魔女は慰めにもならない慰めで鼻息荒いマオを沈静効果のハーブ入りのお茶でなんとか落ち着かせる。血の気が多い若者はこれだから困るのだ。 「兎に角、あんたが預かっている鍵は絶対に完全浄化が必要なんだよ。そのために多少の犠牲もやむなしと神様達はお考えさ」 鍵の浄化の重要性と今後の被害を魔女はマオに説明してくれた。 禁色の森の泉では鍵の浄化が不完全なこと。その結果、森に小鬼が大量発生したこと。近じか、王がこの鍵を使用する儀式があること。そしてこの不完全な鍵で儀式を行えば、歪みで世界が蝕まれること。 【水面に石を投げ込んで発生する波紋のように世界は病んでいくだろう】 「でも僕達は回避できますけどね」 神様やその眷属達は回避する術をちゃんと身に付けている。不幸が降り注ぐのは人間だけ。 「だからね、あんた(人間)が、協力してくれないかね?」