「てっ、ゆーーか、なんであたしがこんなゲロキモクソゲテモノと一緒に行動するわけ? そばによったら、蹴るからね! なんでこんな生き物が存在するの? とっとと滅んでしまえ!!」 「ゲココココ!!」 「五月蠅い! 汚らしい発音しないでよ。耳が腐るじゃない!」 もう蛙愛好家を敵に回した差別発言である。 マオ(小川沿いの道を)と蛙(小川を)は禁色の森の近くの外れ町へ向かっている。そこで一泊してから禁色の森のボスである白毛狼に会う予定だ。この度のマオの任務は次の通りである。(ポケットに行動手順の手紙がはいってあった) 任務の手順です。 @禁色の森の白毛狼から鍵を借りてください。 Aその鍵を茨姫にお渡しください。茨姫が青い鳥をくれる筈です。 Bその青い鳥を外れ町の魔女に渡してください。 by 星の賢者 簡単である。拍子抜けである。「禁色の森の白毛狼」とか「茨姫」とか「外れ町の魔女」とか実にファンタジーな登場人物達だが、彼らは危険な存在ではない。無理難題や無礼千万でなければ常識的対応してくれる善の存在である。 「ゲゲゲコ!」 「これのどこが乙女(処女)でないといけないわけ? 誰でもいいじゃん(面倒だな〜)」 「グェッ、ゲコゲコ」 「ゲゲゲ、ゲコゲコロ!」 マオの思考を中断させるように五月蠅く鳴き喚く蛙に閉口したマオは小川の小岩を蛙(同僚)に蹴り飛ばして黙らせることにする。腹が減っているし、八つ当たりも兼ねているが、まあ仕方がない。誰だってハッピーでばかりいられないのだ。 よく分からないが、この件は王子が元凶な気がしてならない。その直感が更にムカつき具合を加速させていく。自分は青の導師の元に副団長の毛○薬を取いくだけで、その後は非番の筈だったのに。今いる場所はどこだ? ああ、世界の外れにある外れ町に向かうところです。 つ・ま・り、ど辺境ではありませんか!! 黒の騎士団本部のある中央までの帰還にどれだけ時間がかかると思います? 魔方陣を使えば一瞬ですが、新米騎士のマオにはそんな高度な魔方陣は描けません。 となれば、方法は2択、 一般交通機関(陸路と海路と空路経由)で帰還。 導師か魔女に魔方陣を依頼して描いてもらい、帰還。 どちらを選択してもズバリ高額費用だ。せめて騎士団支部が近くにあれば借りるのだが、一番近くの支部の場所は海を挟んだお向いの大陸です。そしてマオの路銀は雀の涙…… そう、仕事こなして、帰還費用まで稼がなくてはならないのです。なんたる理不尽さ! なんたる不幸さ! そんな不幸な自分は思わず蛙に八つ当たりしたって、神様は許してくれる筈。 嗚呼、誉れ高き戦女神よ、貴女の下僕の愚かなる愚考をお許しください。 「だから、人間語を喋べらんかい! 乙女に蛙語がわかるかーー」 「ゲコーーー」 夕日を背景に蛙の悲鳴が木霊したのであった。 「ハァッ!」 気合と共にゴブリンをマオは両断した。二つに分かれたゴブリンから黒い体液が地面に染み込む。森を進むにつれて小鬼の類が襲いかかってくるのだ。お陰でマオの背後には小鬼の骸が死屍累々である。 「意外といるわね。穢れの噂は本当みたいね……」 ゴブリンの頭を皮袋に放り込んでから、剣に付着した体液を下草でぬぐったマオは巨木の根元で小休憩がてら地図を確認する。白毛狼の祠(家)は森の中央に位置するようだ。 森の端から箸までは大人が一日で走破出来る程の規模である。日の出前に出発したマオは騎士の健脚もあって「小鬼退治」しながらでも昼前には楽勝で森の中央に辿りついた。「皮袋の中身」は報奨金との引き換えの大事な証拠品だ。 人助けと路銀稼ぎが出来て、感謝もされるのだから素敵なことである。 宿で一泊してから日の出前に出発することにしたのだが、宿屋にて森に入ること町人に知れるとマオは町人達からこぞって止められた。 (外見が良家の子弟な)彼女が無謀にも単身で森に入る→穢れを受けると勘違いな心配をされたからである。悠々自適な暮らしぶりの町人達は目が曇ったお人よしの善人ぞろいだった。 そんなわけでマオは「困っていた」町人達を付け込み助ける為に「小鬼退治」を申し立てたのだ。「退治屋」と称して。 蛇足だが騎士は民への無償行為と善行が基本である。因みに新月の日が給料日だ。 そして、件の穢れの理由は、 噂A 小鬼の類がやけに増えた。 噂B その原因は「ふられた」某男性がはた迷惑にも泉に身投げしたため穢れが発生したようだ。 噂C 序でに番人は行方不明?? である。 おまけ キノコが大発生。 「噂Cだけは困るわね。行方不明だと鍵が借りれないじゃない。この付近な筈だけどな〜〜 祠」 地図の上では祠はこの近くにある筈だ。 「ゲココ?」 「何? ちょっと、待ちなさい!」 報奨金の算盤をはじくマオを尻目に何かを発見した蛙は休んでいた茸の上から飛び跳ねるように猛然と草むらを突進していった。 マオは蛙を追って草むらを分け入っていく。蛙には月キノコ(発光キノコ)の胞子がついているので点々とした光が目印だ。 「いきなり突撃しないでよ。小鬼に襲われたらどうする気? 蛙のあんたに歯向かう手段はないのよ!!」 草むらをようやく抜けたマオは泉の岸辺にたたずむ蛙を発見→皮袋でしばいた。 「元同僚」の「元騎士」の蛙がチンケな小鬼に食われたなんて、世間に知れたら同行者として騎士としての恥ずかしいではないか。苦手な蛙(同僚)を心配するのが癪なマオは「心配する理由」を並べたてて小言だ。 「ちゃんと話を聞いているの? 大体、蛙の癖に生意気なのよ。今の立場を理解して…… ちょっと、五月蠅いわね、誰よ!? ウジウジと泣きべそかいている奴は!!」 その泣き声が泉の小島にある祠から聴こえていた。シクシク、シクシク、シクシク、ズビーィ。時々鼻も啜り上げている。キノコが大発生している原因はこれかい!? と突っ込んでいいぐらいの湿り気を帯びている。普通はさんざん泣くと気持ちがスッキリ晴れやかになるものだが、この恨み泣きはどんよりと土砂降り気分になっていく。明らかに逆効果である。 しかも泉をよくよく視ると、岸辺は澄んだ清らかさで、祠周辺は墨のように暗く、どろりしている。見事なまでのツートンカラー泉である。ついでに祠には黒い霧状のものまで所々漂っていた…… 「思いっきり穢れているじゃない! 番人はどこに行ったのよ……」 「ゲロロン……」 マオは泉の惨状に呻いた。