天井近くの設置されたブランコに青い毛布にくるまって座る物体がいた。 【暴力反対】 【野蛮人】 【帰れ、帰れ、(・∀・)カエレ!!】 【消えろ、失せろ】 メモが次々と舞い落ちる。 「できれば声と声の直接会話を希望ですが」 メモ魔の物体にマオは声を張り上げた。上の階もぶちぬいて造られたであろうこの部屋の天井は通常より遥かに高い。 【……無理】 「どうして?」 【封印されて声がでない】 「あっ、ごめんなさい」 誰もが五体満足で生きているわけではない。これはマオの配慮不足の不適切な発言だ。 マオは声を再び張り上げた。 「茨姫からの言伝です。<もうすぐ卵が孵るから、どうしても立ち会って欲しいと>」 遠目にも彼の態度がビクリと動揺したのが分かった。自分の雛が卵から孵るのだから当然だろうが。 聞いてビックリしたが、このヒッキーな青い鳥と茨姫は番、つまり夫婦だ。なんでも茨姫が彼の元に押しかけ女房の突撃婚で結ばれたとのこと。彼女の趣味はちょっと変だとマオは思うのだが恋愛は自由である。 【移動手段は?】 すかさず、マオは茨姫の用意してくれた彼専用の金の鳥かごを差し出した。 「これにお入り下さい。お連れいたします」 青い鳥は天井の止まり木から舞い降りながら人型から本物の小鳥と化して、鳥かごの止まり木に身を休める。手間のかかるニート鳥だよ。ったく。翼と呼ばれる行動器管を使用する気はゼロのようだ。 【茨姫の元へ連れて行け】 空から伝言メモがヒラヒラと現れる。 味気ない会話の応酬だが、まあ、いいか。仕方がない。 少なくとも目の前の蛙のようにゲーコゲーコと鳴くばかりで意志の疎通がないよりはるかにマシだ。見た目も美しい。 「不自由でしょうが、少しの間ご辛抱ください」 マオはかごに布をかけ、茨姫の巣へ戻るために蛙と歩き出した。 「交尾以来ですね」 【……】 「わが子の誕生の瞬間すら放棄するおつもりでしたの?」 【……】 どうも、交尾以来一度も顔合わせしていない枯れた夫婦関係のようである。そしてその原因は夫サイド、青い鳥にあるようだ。久々の夫婦の会話だが、端々から冷気がシンシンと漏れ出している。マオと蛙も顔を見合わせ、少しずつ二羽から距離を稼ぐ為に巣の端へジリジリと移動した。心なしか青い鳥の青さが色濃くなったような気がする…… この場面は昔、マオが熱で苦しんでいた時に浮気相手とヨロシクやっていた事が発覚した祖父に祖母がジリジリと追い詰めた場面を彷彿させた。その時の祖母の背後には確実に絶対零度の冷気が噴出していた。 「名は考えてくださいましたか?」 【……】 茨姫の抱卵している卵は二つ。慣例に則り、一つに父方の名を一つにと母方の名を授ける。一つの場合は母方の名が授かることとなる。フレア鳥は母系社会だ。雄鳥は通い婚であることが多い。この夫婦の場合は青い鳥がこの館に封印されている為に立場が逆なのだ。 「あ・な・た、名前は?」 【……】 青い鳥は頭を背中に丸めるように埋めている無言の無視態度にとうとう、茨姫がプルプルと震え初めた。 まずい、これはくる、やばい。 そうら、キタ━(゚∀゚)━! 茨姫の金の虹彩がカッと開き、冠と尾羽がぶわっとひろがった。鳥が興奮や威嚇・怒を表す時の風貌だ。愛情表現の場合もあるが、会話の状況からみてその線はありえない。 冷気が熱気へ変貌した。茨姫の周囲が炎に包まれたように熱を放つ。太陽をシンボルにもつ総理神の御使いの神鳥の怒りの魔力は半端ない。 「あなたーーーーーーー!!!!」 白炎と金の光が周囲を埋め尽くした。 「逃げるわよ!」 「ゲコー」 神鳥の魔力が溢れ、怒りで荒れ狂うフレア鳥の修羅場の巣をマオと蛙は一目散に逃げ出した。 「はあ、間一髪ね」 「ゲコウ」 命からがら、逃げ出したマオと蛙はぐったりと座り込んだ。目の前には炎に包まれた館の惨状が拡がっている。青い鳥を迎えに行く為に茨姫が作った進入経路に飛び込んで脱出成功☆だ。 塔の天辺から茨姫の咆哮と魔力の放出が未だ続いている。まさに紅蓮の火柱である。このままだと塔も崩れ去るのは時間の問題だろう。 天辺に構えている巣と卵はどうなるのだろうか? 極当たり前の疑問がマオの頭をよぎった。 【この熱を利用して孵るだろうから心配いらない】 ひらりと紙が舞い落ちる。流麗な文字は見覚えありありだ。 【この地では熱量が足りない。本来、卵は火焔山の営巣地で孵すものだ。あのままだと危なかった】 頭に何かがいる感触。これはまさか… 恐る恐る、頭上の生き物を手に乗せて確認する。 【ついでに封印もぶっ飛ばしてくれたしな】 一石二鳥と、手の平でチチと鳴く青い鳥。 「うわっ、なんでアンタまでここにいるのよ……」 この状況は喜ぶべきか嘆くべきか?